第2章 オリエンテーション
その頃はまだ今よりは章ちゃんのお父さんもお母さんも日本にいることの方が多かったと思う。
けど、前から予定していた山登りの日。
章ちゃんのお父さんとお母さんが、急遽海外に飛ばないと行けなくなった。
章ちゃんのお父さんとお母さんは、あまり章ちゃんを海外に連れていくことは無かった。
海外は日本ほど安全じゃなかったし、
まだ幼い章ちゃんをいろんなところに連れていくには行動が制限されるし。
何より、病気や怪我をしたとき、やはり便利がいいのは、行きつけの病院がある日本だったから。
『いやや!やまのぼり行く!』
いつもは『わかった』と頷く章ちゃんが、
その時は反抗した。
『…嫌じゃないの。
お母さん達も本当は行きたいけど…』
章ちゃんのお母さんが、章ちゃんを宥める。
『ほんならやまのぼり行こおや!』
ずっとこの繰り返し。
わたしは何も言えなかった。
章ちゃんのお父さんお母さんが来れないということは、
やっぱり山登りは諦めないといけないんだろうとも思っていたし、
でもわたしも山登り行きたいなとも思っていた。
それくらい、前々から楽しみにしていた。
『…じゃあ……私たちだけで、章ちゃんを連れていくのはどうですか?』
わたしのお母さんがそう提案した。
『大人2人、子供2人。子供の方が多いというわけじゃないから、1人ずつつくような感じで、見失うこともないやろし。ずっと楽しみにしていたから…行かれへんのは可哀想やわ。どうやろか?』
お母さんのその提案に、
章ちゃんのお母さんは、
『それなら……ご迷惑をおかけします』
そう言って頭を下げた。
多分、それが初めての山登り、だったかな?