第1章 わたしの
やっぱりギターしてるから音程がしっかりしてるのかなってくらい。
特徴的な歌声だと思う。
何人もの人の中に章ちゃんが混ざって、「安田章大の歌声はどれか」って聞かれても当てれる自信があるくらい。
それくらい、オリジナリティに溢れる声なのに、全然下手くそじゃない。
声の操り方が上手いのかな?
だから章ちゃんと歌うのは恥ずかしくて出来ない。
「おれ、しーちゃんの声、好きやで??」
「っ、で、でも下手だからっ!」
簡単に「好き」っていう単語言っちゃう章ちゃんが恨めしい。
毎回、顔を赤くしてしまう自分も恨めしい。
「下手やないって!」
章ちゃんが一生懸命、フォローしてくれる。
けど…歌はちょっと…かと言ってギターとか楽器も…。
「あっ、そうだ」
「??」
「わたし、マネージャーみたいなこと、しよっかな?」
「へ?」
運動部とかにもいるし。
「部費とかの調整したりとか…みんなのサポートする側」
「あぁ…なるほど」
ふむふむ、と章ちゃんが人差し指を顎にやり、考える。
「それなら、わたし軽音部入る」
「…入ってくれるんやったら、おれはええねん!」
ふふふっ〜、と章ちゃんが満足そうに笑う。
「兎希も入るのかなぁ…」
「兎希ちゃん、美術部は??」
「聞いとこっか…」
兎希にメッセージを送る。
と、ちょうどバスが来た。
*******
「来週のオリエンテーション、楽しみやんな」
バスを降りて家に向かう。
ちょうど5分くらいの距離。
「え〜そう??遊べないよ?」
集団行動やら何やら。
鍛える的なもの。
「でも泊まりやん?」
「章ちゃん、泊まりとか好きよね」
「うん好きや~なんかもう楽しいねんな〜」
すぐに家の前に着く。
「でもしーちゃんのとこには最近泊まってへんなぁ…」
「!!」
さっきまでの楽しそうな表情とは打ってかわり、少しだけ、切なげな顔をする。
「そ、そうだね」
なぁ~、と相槌を打つ章ちゃん。
……わたしとしては泊まられても困る。
昔はそんなことなかった。