第1章 わたしの
でも…
「保守的になってんのはおれもですよ」
「うん?」
長野さんは意味を汲み取ったのか、「あぁ、」と言って、それっきり何も言わなかった。
おれは、しーちゃんとのことは保守的になってる。
何回も今の気持ちを打ち明けてしまえたら、って考えた。
周りにだって言われた。
けど、どうしても、踏み出せない。
「よし、もういいよ」
「あ、はい」
採寸が終わり、店内に戻る。
「シフトとか制服が届き次第、また連絡するから。今日はもう帰ってもらって大丈夫だよ」
長野さん、いや、店長がにこりと笑ってくれた。
「じゃあな~初々しい若者達よ~!」
と松岡さんがドアを開けて待ってくれる。
「…ほな、今日は帰ります〜。
しーちゃん、」
「うん」
行こ、と振り返るとすぐにしーちゃんが横に来る。
「今日はありがとうございました。章ちゃんをよろしくお願いします」
ぺこりとしーちゃんが頭を下げる。
おれも遅れて頭を下げると、松岡さんと店長が苦笑しながら、「お母さんと息子みたい」と言った。
「じゃあ章ちゃんがバイト始まったら一緒に帰れなくなっちゃうね」
バイトの話が終わって、章ちゃんとバスを待つ。
「そうやなぁ……その、さ」
「うん?」
章ちゃんが少し言いにくそうな顔をする。
だから、「もしかして高校生にもなって一緒に帰りたくない」とか、なんかそういう嫌な想像をしてしまう。
「おれのわがままばっかでほんまゴメンなんやけど…」
「…なぁに?」
自分の嫌な想像を頭の端に抱えながらも、「落ち着いて」と自分を抑える。
「しーちゃん、軽音部入るん、嫌?」
「え」
「やっぱ…あかん?」
章ちゃんが切なそうに首をかしげて、顔をのぞき込んでくる。
「…朝も言った通り、入るのはいいんだけど…わたしなんも出来ないよ?楽器も、歌も………」
兎希とはカラオケ行くけど、章ちゃんとはあまり行かない。
兎希はわたしと同じような考えというか感覚というか…共通点があるから、気兼ねなく一緒に行って、ひとりで歌うのは嫌だから、どんな曲でも歌う時まで一緒だったりする。
けど、章ちゃんとは…。
章ちゃん、歌うまいんだもん。