第1章 わたしの
「そうだねぇ…なんか知る人ぞ知る、みたいなね」
「それだったら君らの学校の近くにあるよ」
「へぇ〜……って、えっ?!」
今章ちゃんの声じゃない声が聞こえた!
空耳かと思ったけど章ちゃんが隣を見ていた。
私たちと同じように、ふたり席で、壁側がソファ掛けになっていて、今わたしたちは、わたしがソファ側で、章ちゃんが椅子側。
その人はわたしの隣に座っていた。
「あの…?」
人見知りをしない章ちゃんがおずおずと話しかける。
「うん?」
その人は惚けるかのように首を傾げる。
『うん?』じゃないでしょう…明らかに怪しいよ…
店内でもグラサン掛けてるし。そんなに明るい店内じゃないですよ??
「あぁ、俺ね。通りすがりのカッコイイお兄さん」
「いや、通りすがってないんですけど。むっちゃ座ってるんですけど」
さっきまでのおずおずはどこへやら。
章ちゃんが警戒心むき出しになっている。
「あっははははは!イイねぇ!ツッコむねえ!」
その怪しい人は豪快に笑った。
風貌に合わず、少し声が高いようだ。
「うんうん。なかなか気に入ったよ。」
「いや、あの、」
章ちゃんが対応に困っていると、その人がグラサンを取った。
「君らの学校に知り合いがいてなぁ!それでつい声をかけたんだけど。俺は松岡昌宏。君らの言う、『小路に入ったところにあるような喫茶店』、心当たりがあるんだけど?」
………いや、怪しすぎると言いますか…。
「し、章ちゃ、」
「ほんま?!」
「?!」
く、食いついちゃった…!
「ほんまほんま。確か『人を雇ってみようかな』って言ってたから…紹介しようか」
フッ、と笑う姿はまさに大人の男という感じで。
いや、優しさも感じるんだけどその分怪しさもあるというか。
「お願いしますっ」
「うっ、え!お願いするの?!」
「よーしよーし。坊主、見る目あるなぁ!会計払ってやるからお嬢ちゃんもそんな警戒しないでよおっ!」
よお!って…
話し方、ガラ悪いな…!
「なっ、行ってみいひん??」
章ちゃんがうきうきとした顔で言う。
そんな、期待に満ち溢れてる表情されたら……
「うん…わかった」
としか言えないでしょ〜…