第1章 わたしの
「あ、ほんまー?ほな……あっ!なぁなぁ!ちょっと近くに何かお店ないか、見いひん?」
「お店?」
「おん!おれバイトしたいねん」
「…バイト?」
軽音部、したいって言ってたのに…
「高校生なんやから勉強せえ!って言われるかも知らんけど…まぁ自分でも稼げる歳やん?
高校生でも雇ってくれるとこあるし」
「そう、だけど…」
章ちゃんの両親が海外にいることが多いにしても、生活費とか困ってないはず…結構世界的に有名というか、人気のブランドを作っているらしいし……。
「自分で自分のために使う分とかくらいは自分で稼ぎたいねん。そしたら誰も文句、言わへんやろ?」
いつもの笑顔で、章ちゃんが笑う。
けど、
どこか、切なそうに見えた。
すごく、気になるけど、
多分聞くべきじゃないんだろうなって。
少なくとも、『今は』。
きっと話せるようになったら話してくれる。
「うん。だって自分で稼いだお金だもんね」
何も追求せず、そう言うと、
章ちゃんはパッと嬉しそうに笑う。
「せやろ?しーちゃんならそう言ってくれるって思ってたわ!」
「なにそれ?じゃあわたし章ちゃんの手のひらで転がされてたってこと〜?」
ふふ、と笑いながら靴箱へ歩き出すと、「ちゃうよ!そうやなくて!!」と少しだけ慌てながら章ちゃんが追いかけてくる。
わたしの幼なじみは、
すごく優しくて、人の立場に立って考えれる人で。
人に恨まれることもなく、むしろ好かれる人で。
いつも可愛い笑顔で他人の事まで幸せにする人で。
それでいて、時々、切なく笑う人。
章ちゃんは、
わたしにとってはただの『幼なじみ』じゃないけど、
この関係が崩れてしまうなら。
なくなってしまうなら。
今は、
このままで、良い。
このままでいさせてほしい。
皆の気遣いだってありがたい。
それに応えれないのももどかしい気もする。
けど、今は、
もう少し待ってください____