第1章 わたしの
章ちゃんに紛れて、
わたしも「おはよう」と言えば、同じように「おはよう」と返してくれた。
「なんやあったん?」
席に座った渋谷くんに章ちゃんが聞いた。
「いや、」
ちらりと一瞬わたしの方を見た気がしたけど、それっきり、「なんも」と言って黙ってしまった。
章ちゃんもそれ以上何を聞こうか分からなかったらしく、首を傾げる。
それから少しして、
横山くんと兎希が話しながら教室に入ってきた。
「は?じゃあまたリップなくしたの?」
「おん。なくしたっていうかどっか行ったっていうかやな」
「どっちも一緒だわ。」
兎希がそう言った後、軽く「おはよ」と言ってくれたからわたしも「おはよー」と返す。
「おはよお、またリップなくしたん?よこちょ」
また章ちゃんが先に挨拶をする。
「おはよ。そやねん。俺のリップは生きとるわ」
「そらお前が生きとる限り死なんやろ」
と渋谷くんが言う。
ん?
どういう意味?
「こっちのリップとちゃうわwww」
そう言いながら自分の唇を指さす。
あぁ、リップって唇の方…
とわたしが理解すると同時に、前の席に座った兎希がぶふっ!と少し吹き出す。
「おぉ、良かったなすばる。兎村が笑ったで」
「…や、別に……良かった、わぁ、」
どう反応したらいいのか分からなかったのか、渋谷くんがぎこちなく言う。
「いや、ほんと、ありがとう」
笑った、と笑いながら渋谷くんの方を向く、兎希。
すると渋谷くんは、ピタッと止まる。
「兎希ちゃん、それ何に対してなんwww」
章ちゃんが兎希の発言に対して突っ込んだ。
「えっ、やっ、……笑わせてくれてありがとう的な…?」
「自分でもわからんねやwww」
そんな話をしていると、チャイムが鳴り、
生徒が席につき、先程までよりも少し静かになる。
「おはよう〜。おぉ、ちゃんと席ついてるな」
と坂本先生が入ってくる。
「よし、朝のホームルームを始めまーす」
SHRが終わり、少しの休憩時間を挟む。
「雫は?何なる?」
兎希が振り向き、机越しに言う。
「図書委員がいいなぁ、って思ってるんだけど…兎希も図書委員が良いでしょ…?」