第1章 わたしの
「いや!っていうかだめだよ!ちゃんと寝なきゃダメだって言ってるのに」
今までも何回もあった。
章ちゃんがギターにのめり込むようになったのは中学に入ってからだったように思う。
もともと、学力はちょっとアレでも、興味のあるものとかにはのめり込みやすい方だったから、
ギターもすぐにどんどんと上達していった。
少しCMで流れた曲とか、流行りの曲。
あと好きなアーティストの曲。
少し聴くと、その場ですぐに弾いてくれたり。
ギターを弾いている時の、あの別の生き物のような手の動き。
そして、真剣な表情や、心底楽しいという表情。
すごく、素敵。
「つい、夢中になってまうんやもん。
あ、それでな、やっぱ軽音部、やりたいねん」
「軽音部?」
朝ごはんを少し急いで食べながら、「そういえば、昨日も言ってたかな?」と思い出す。
「…入らへん?」
章ちゃんが、仔犬のような瞳で見る。
…この目の使い方は、無意識なのだろうか?それとも、わざと?
「…入ってもわたし何も出来ないよ」
「いや、軽音部がないかもしれんし、休部みたいになってるかも知らんから、そうやったらどっちにしろ人いるやん?やから入るだけでも!」
あぁ、なるほど、
と納得する。
わたしと一緒に、がいいわけじゃなくて。
人数が欲しいだけ、ということにも納得する。
ただ、それだけだって分かってるのに。
「…分かった。軽音部、入るよ」
それでもわたしは、
章ちゃんのこの瞳に弱い。
「ほんま?!やったあ!!」
ふわふわほわほわ。
そんな擬態語がとてもよく似合う幼なじみは、わたしの了承の言葉を聞いて大いに喜ぶ。
…これを機に彼の大好きな楽器に触れるのも、また、いい経験かもしれない。
「あれ?」
「おらへんね」
バスに乗り込んだは良いけど、
兎希が乗ってくるはずのバス停に着いても、兎希の姿はない。
「どうしたんだろう?」
ケータイを見てみても何も連絡が来ていない。
昨日とバスの時間に変わりはないから、乗るとしたら同じバスのはずなのに…。
「休みってことはないやろ?」
章ちゃんも心配そうに言う。
「聞いてないなぁ」