第3章 一学期
「ほんと交友関係広いね」
「そういう人との出会いに恵まれてるわ、おれ」
ふふん、と口角を上げて、目を細めて目尻に少しシワを作って章ちゃんが柔らかく笑う。
きっと章ちゃんのこういう笑い方もだけど、人柄がいいから人間関係も良くて、交友関係も「この子だったらあの人にも紹介したい」っていう風に増えていってるんじゃないかと思う。
…それに比べてわたしは……
章ちゃんか兎希を通してじゃないと交友関係が広まらない。
それか、わたしに興味を持ってくれた稀有な人が積極的に話しかけてきてくれるか。けどそれは本当に極稀。無いと言っても良いくらい。
「わたしも章ちゃんみたいになれたらなぁ」
ぽつりとこぼすと、章ちゃんは「ん?」と一瞬間をあけて、「しーちゃんがおれみたいになったら困るなぁ…」と言った。
「え?なんで?」
章ちゃんは微妙な笑い方をしてから、
「やってバカ二人になってまうで?」と力なく、眉尻を下げて笑った。
なんとなく寂しくなるような笑い方。
丸山君と教室の前で別れ、自分たちの教室に入った。
「あれ。そういえばなんで渋やんたち、丸と一緒やなかったんやろ。」
兎希「あ、なんか見事に丸ちゃん以外寝坊したらしくてね、特に渋谷くんが最後まで連絡つかなかったとかで、ヒナぽんが『丸、先行けえ!』って言ってきたんだって」
「えっ!村上くんも寝坊?!珍しい…」
渋谷くんはどうだか知らないけど、村上くんは寝坊するイメージがなかった。
「あっ!ノート!!」
章ちゃんが声を上げて、わたしを振り返った。
「あ、うん」
机に移動して鞄からノートを取り出し、章ちゃんに渡す。
「ありがとぉ!」と章ちゃんが受け取り、自分の席に着く。
わたしも自分の席に座り、鞄の中の荷物を机の中にしまう。
これから置き勉だらけになる机の中。今はまだすっからかんだ。
兎希「オリエンテーションから帰ってきた日さ、お兄も帰ってくる日で、あたしそれ忘れてて」
荷物の整理が終わったところで前の席から半身こっちに向けた兎希が話しかけてきた。