第3章 一学期
「剛お兄ちゃんが?入学式は来れなかったよね?」
兎希「うん。あの時はちょっとおっきな仕事が重なっちゃったとかで…」
「えっ‼剛にーちゃん帰ってきてたん?!」
こっちからはノートが見えないほどに前かがみになっていた章ちゃんが勢いよく頭を上げ、兎希の方を見た。
兎希「うん。ヤッさんにも会いたがってたよ。ってかそんなことよりあなたは早くソレ写しときなさい。」
「うーー‼」
「ふふっ」
章ちゃんの悔しそうな呻き声が面白い。
剛お兄ちゃんは兎希のお兄ちゃんだけど、一人っ子のわたしたちのことも妹や弟のように相手してくれる優しいお兄ちゃん。
確か兎希とは8歳ほど離れてるはず。歳の差が大きいからか、それぞれの性格かは分かんないけど、傍から見てても仲の良い兄妹だと思う。
そしてギターを弾く人だから章ちゃんは特に懐いてる感じがする。
連絡のやり取りはしてるはずだけど、相手はなんたって一人暮らししてる社会人。実家に戻ってくる回数は多いほうではあるだろうけどなかなか章ちゃんやわたしは会えない。
剛お兄ちゃんの帰ってきた日の話を聞いていると予鈴が鳴った。そしてその予鈴と同時に横山くんと渋谷くんがなだれ込む様に教室に入ってきた。
「あ!二人ともおはよう!」
ちょうどノートを写し終えたようで、章ちゃんがノートを「ほんまありがとう」と言いながら返してきた。
渋「あ゛ーーーきっつ…」
横「あ゛ーーーきっつ…はこっちのセリフや!」
ガタンッ、ゴトンッと大きな音を立てつつ二人はそれぞれの席に座った。
兎希が「お疲れさま」と二人に声をかけた。
安「寝坊したんやって??」
横「おん!!けど寝坊だけとちゃうねん!」
「??何かあったの?」
横「すばるのチャリンコ、チェーンがパーーンなって!!」
「うわ…」
普段自転車は乗らないけどチェーンが外れるのが面倒だってことは分かる。
兎希「手ぇ真っ黒じゃん!」
兎希の声に二人の手を見ると確かに黒い。チェーンが外れた張本人の渋谷くんの手が特に黒くなってる。