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潮風【コビー】

第8章 言えば伝わる


店内に一歩入ると、そこには大きな湖の様なものがあった。

その湖から太い柱が一本ずつ出ていて、その上に部屋が設置されている。店内が仄暗いので、まるで空中に浮んでいるようだ。

部屋はそれぞれ個室になっており、ウェイターは障子を開けて食事を提供している。

異国風の提灯がたくさん飾られていて、それらが星のように輝いている。

二人は中央に浮かぶ部屋へと案内された。

「このお店、素敵ですね。なんだか幻想的で・・・」

そないやったらは思わずため息を洩らした。

「ほ、本当ですか?!良かった・・・!」

コビーはほっとした様子である。

「そないやったらさん、お好きなものを頼んで下さい」

「どれも美味しそうで、迷っちゃいます」

「じゃあ、季節のコースにしましょうか」

「それいいですね」

コビーがウェイターを呼び、注文をする。

やがて食前酒が運ばれてきた。

「本日の食前酒は桜の香りづけをしたものでございます」

ウェイターの言う通り、口に含むとふわりと桜の香りがした。

「コビーさん、このお店によく来るんですか?」

「いえ、今日が初めてです。・・・あの、調べたんです」

「わざわざ・・・ありがとうございます」

「いえ!せっかくそないやったらさんと食事できる機会ですから」

「私、コビーさんとこんな素敵なお店に来れて嬉しいです」

そないやったらは頬を紅く染めて言う。

「僕のほうこそ!」

コビーは片手を頭の後ろにやり、赤面している。

「あの・・・ところで、火傷はもう大丈夫ですか?電話でも聞きましたけど、心配で」

「はい、すっかり治りました。ありがとうございます」

そないやったらはコビーに手を見せた。

コビーは思わず、そないやったらの手を取っていた。
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