第2章 たった1人でのゴールデンウィーク合宿
「小さい頃、大きな犬に噛まれそうになったことがあるんです。
大きい体が襲ってきて、私は地面に倒されて…それがトラウマなんだと思います。」
幼い子供にとっては物凄い恐怖体験だった。
あの時の恐ろしさがよみがえって体が強張る。
しかしその出来事の続きを思い返し、美月は寄せていた眉の力を緩めた。
「…犬に押し倒されたとき、とにかく振り絞って大声を出したんです。
助けてー!って。
その時助けに来てくれたのが日向くんでした。」
『こら!離れろ!!』
視界を占めていた犬の顔が消えると、
目の前に現れたのは小さな男の子の背中。
男の子は一心不乱に持っていた傘を振り回し、犬を追い払ってくれた。
犬がいなくなり、緊張の糸が切れたのだろう。
突然泣き出した私を、翔ちゃんは家まで送り届けてくれた。
それから家が近所であること、通っている小学校が同じであったことを知り…
「あれからずっと、日向くん、私のこと何かと守ってくれてるんです」
いつの間にか美月は笑っていた。
その笑顔があまりに優しくて、菅原は言葉をかけるのに時間がかかってしまう。
「…日向は、美月ちゃんにとってすごく大切なんだね」
「あ…はい!」
ガタッ
扉の近くでした物音に2人は振り返る。
しん、と静まり返った中、おずおずと姿を見せたのは――