第2章 たった1人でのゴールデンウィーク合宿
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体育館に場所を移し、今日も練習が始まる。
練習が始まって少し経つと、烏養監督の休憩の号令で、部員は一斉に休憩に入った。
清水がタオル、美月がドリンクをいつものように手分けして渡す。
しかし、そこにはいつもと違う光景が…
「田中さん!お疲れ様です!」
「おう!・・・ん?」
「成田さんもお疲れさまです!」
「えっ、あ、うん」
真っ直ぐ自分の目を見てドリンクを手渡してくる美月に、部員は戸惑った。
今までは目も合わせてくれず、言葉も詰まりながらだったというのに…
突然の変化の原因は今朝の澤村との会話だった。
『澤村さんが…?』
『あぁ。マネージャーと部員の連携がとれてないのはまずいからさ、
仲良くするようにって。怖がらせてごめんな』
澤村の言葉を重く受け止め、
自分が部の重荷になってはならないと考えた美月。
そこで、“身体大きい人恐怖症対策”として
まずは部員ときちんと目を合わせながらドリンクを配ることに決めたのだ。
そしてドリンク配りの修業は最大の敵(?)、東峰の元へも。
「おつっ、お疲れ様ですっ!!」
「わっ、は、はい!お疲れさま…」
気合十分でドリンクを渡してきた美月に、
東峰はすっかり気圧されてしまった。
美月は東峰の目をしっかりと見つめたまま口を開く。
「東峰さん、お願いがあります」
「はい…っ!?な、なんでしょうかっ」
なんでお前が敬語だよ?と、東峰の隣にいた菅原は心の中でツッコんだ。
「私のことは、下の名前で呼んでください!」
「は…えぇ!?」
「宜しくお願いします!…では!」
東峰はワケが分からないといった様子だったが、
美月は言い逃げする形でドリンクを配りに戻ってしまった。
下の名前で呼んでもらう、というのも彼女の恐怖症対策の1つ。
気軽に名前を呼んでもらうことで仲良くなる
→怖くなくなるという方程式を立てていた。
部員全員にこの方程式を当てはめるため、自分を上の名で呼んでいる相手には
それぞれに下の名で呼ぶようにお願いをしつつ、ドリンクの配給に回る。