第4章 インターハイ、秘密の応援策
皆がクールダウンの柔軟をする中、美月は一試合目で使った備品の整理をする。
このあとお昼を挟んで二試合目を行うため、すぐ使うものと使わないものに分けておいた方が良い。
「おい」
後ろからの声に首だけ回すと、影山が隣に座ってきた。
「及川さん、本当に何もしてきてないか」
睨むように言われて、美月は喉を詰まらせる。
「そんな心配するようなことは無いよ」
笑って誤魔化すが横からの視線は痛い。
「あの人は俺が困るところを見たいんだ」
「え?」
手を止めて影山の方を見る。
何か思い出したのか、影山の顔は青い。
「あの人すげぇ性格悪いから…
俺を公式戦で叩き潰すとか言ってたし」
(影山君って、及川さんの中学の後輩なんだっけ)
先輩・後輩の仲で“叩き潰す”なんてやり取り穏やかじゃない。
女の子の前での及川は終始笑顔だったが、バレーになると違う一面があるのか。
「俺への当てつけでお前にも突っかかる可能性がある。
何かあったらすぐ俺に言え」
(負けたらデートっていうのも、影山君への当てつけ…?)
デートの約束がどうして影山への当てつけになるのか分からない。
試合への集中力を切らせる効果があると及川は考えたのか…
(だとしたら、変に影山君に話して及川さんの思い通りにするわけにはいかない)
影山の心遣いに感謝しつつも、美月はあの約束を口にしないことにした。
「ありがとう。何かあったら、影山君を頼るね!」
「っ…おう」
「王様、顔赤い」
冷ややかな声は月島からだった。
後ろで会話を聞かれていたようだ。
影山の眉間に深いしわが寄る。
「“王様”って呼ぶんじゃねぇよ」
「あーはいはい。今のは王様っていうより王子様だったもんね」
「あ?」
(しっ、試合前に喧嘩はだめ!!)
一触即発の空気。美月は咄嗟に向かい合う二人の間へ入った。
「じゅっ、柔軟はもう終わりでいいよねっ!ごはん食べよごはんっ」
二人を交互に見やり「ね?」と落ち着かせる。
ふいっと顔をそむける影山と月島。
どうして仲良くできないのか、美月はため息をつくばかりだった。