第4章 インターハイ、秘密の応援策
「向こうのコート終わった。伊達工の圧勝」
色素の薄い短髪の青城生が報告に来た。
コートが空いたということは、青城も試合前の練習に向かう時間ということだ。
座席に広げた荷物を取り、美月に背を向けていく。
「あっ、あの…!」
立ち去る背中を引き留められ振り向くと、
美月は俯きがちに、それでも一歩及川の前へ歩み出た。
「チビちゃんチビちゃんって、うちの日向を舐めないでください」
予想外の発言で、及川は美月を凝視する。
「烏野は次の試合も勝って、そのまた次の試合で青城にも勝ちますから」
震える手を隠すため、『喧嘩上等』のタオルをぎゅっと握りしめる。
「…女の子に宣戦布告されたのって、初めてだなぁ」
及川の含み笑いを横で見て、岩泉が顔を引きつらせた。
「分かったよ、チビちゃんっていうのは訂正する」
にっこり微笑まれ、美月は一瞬ホッとするが…
「烏野が俺たちに勝ったらね」
「なっ」
「で、負けたら美月ちゃんは俺とデートすること!」
「…へ?」
満面の笑みで言われたセリフが理解できず、もう一度言葉を飲み込む。
“負けたら俺とデート”
「!!!?」
「あはは反応いいなぁ~!じゃ、そういうことで」
及川はひらひら手を振りながら、自分たちの練習に向かってしまった。
その後ろ姿はまるでもうデートが決まったかのように浮かれていて…。
岩泉が後頭部めがけて頭突きするまで、ずっと鼻歌が聞こえていた。