第4章 インターハイ、秘密の応援策
日向が部室に入っていっても、それに続く者は誰も居なかった。
否、誰も続くことが出来なかった。
二人の間に流れる、長い間一緒に居たからこその親密な空気感に、誰も近寄れない。
「ん…違うの、それはバウムクーヘ…翔ちゃん?」
(((((…バウムクーヘン?????)))))
謎の寝言と共に起き上がった美月は寝ぼけた目をこすり、辺りを見回す。
ぼやぼやとした視界がはっきりとし始めた。
「え、翔ちゃん?なんでここに…?」
「なんでって、それはこっちのセリフ!
俺らは部活始まるから来てんのに、美月が占拠してんだもん」
(“俺ら”…?)
美月が日向の後ろに視線を移すと、
なんとも気まずそうな表情をした2年の先輩方、影山、
――そして、月島と目が合ってしまった。
事態を把握した美月はカアッと赤くなって、立ち上がる。
部室で眠りこけてしまった、しかもそれを皆に見られた…!
「すすすっすみませんっ!!!!ちょっと頭冷やしてきますっ!!!!」
恥ずかしさで消えてしまいたくなった美月は部室を飛び出す。
どっ
「きゃっ」「ぅおっ」
俯いたまま階段を駆け下りると、その先で誰かとぶつかってしまった。
反動で倒れそうになった美月の手を、その相手が引いてくれ――、
「あっぶな…大丈夫か?」
「は…い。…!?」
顔を上げれば至近距離で目が合ったのはキャプテン、澤村。
気付くと美月は澤村の腕にすっぽり包み込まれるような体勢になっていた。
(はっ、恥ずかしくて…っ爆発する…っ)
「…!大地っ!離して離してっ!」
その様子に気付いた菅原が声をかけ、澤村は慌てて美月を解放した。
「悪い!大丈夫か?」
「はっ、はい!こちらこそすみませんっ失礼しますっ」
美月は脱兎のごとく走り去っていった。