第3章 カラスとネコと
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「美月ちゃん、そこのバッグこっちに持ってきてもらっていい?」
「はーい!」
準備運動を始めた部員たちを横目に、清水の元へ駆ける。
(ついに試合、始まるっ!ドキドキする~っ)
持ってきた荷物を解きながら、美月はついにやけてしまうのを止められなかった。
「なんだか嬉しそうだね」
清水がくすっと笑う。
「あ、はいっ!なんたって噂に聞く、音駒と烏野の夢の試合なんですもん!」
翔ちゃん今日も飛ぶかな~と漏らすと、清水はちょっと考えて、
「音駒の仲良しな人たちと会えたから、じゃなくて?」
いたずらっぽく問いてみせた。
すぐに質問を理解できなくてきょとんとするが、
その意味に気付くと美月はボッと赤面。
「しっ、清水先輩まで!!ひどいっ!からかわないでくださいーっ」
持っていたタオルに顔をうずめ呻く美月に、
清水はごめんごめんと謝る。
「皆が慌てるのも分かるくらい仲良かったから、つい。
特にあの…音駒のセッターだっていう人?」
「…研磨ですか?」
「ん。美月ちゃんだいぶ心開いてるなーってびっくりした」
顔をうずめてしまったタオルをはたき整えながら、清水の言葉を反芻する。
(そう言われると、男の人にこんなに早く心開くの初めてかもしれない)
「研磨は…私と似てるなって親近感を感じてて…だから、特別なんだと思います」
答えると、清水はそうなんだと優しく微笑んでくれた。
(わ。声に出してみると、特別とかちょっと恥ずかしいかも)
再び火照りそうな頬を手で押さえていると、号令がかかる。
音駒との練習試合が、ついに始まった。