Fall in love with you【R18】
第9章 nine
誰かが発した声が俺の耳に届いて、忘れようとしていた記憶が呼び起こされる。
丸くて、砂糖みたいな甘さを持っていた“あの時”と声は変わらないのに、しっかり芯があって。
凄く、懐かしい。
「やっぱり繋心だ!懐かしい〜久しぶりだね!」
よりによって、どうして今なんだよ……
「ハル…」
「髪伸びたね。それにかっこよくなった。」
綺麗にネイルの施された指先が髪に触れる。
「あの、」
控えめな声にハッと我に返った。目の前には何がなんだか分からないと困惑する藍原がいて、やらかしたと頭の中でもう一人の自分が告げた。
「あれ?繋心妹いたっけ?それとも親戚の子とか?」
にこにこと屈託のない笑顔を見せながら俺に問いかけてくる。藍原の表情は、一切変わらない。
「まさか、彼女なわけないよね?だとしたらアンタ女の趣味変わりすぎ。」
「おい、店ん中だぞ。静かにしろよ。」
ケラケラと声を上げて笑う彼女を注意しながら、正面に座る藍原をチラッと盗み見る。
「わたし、お手洗い行ってきますね。」
俯いた顔からは何も伺えず、箸を置いて立ち、スカートの裾を翻しながらトイレの中に消えて行った。