Fall in love with you【R18】
第9章 nine
練習が始まる前まではプカプカ風船の様に浮ついていた意識も、ひと度練習が始まってしまえばすぐに切り替わり指導に熱が入る。
「おら足止まってんぞ!」
「もっと回り見ろっつってんだろ!!」
筋力の衰えた体では長時間動き続けることは難しい。それに残暑の厳しい今、水分補給を怠っては選手達にも良くない。
「水分ちゃんと取れよー!おいコラ日向、影山!ちゃんと休憩しろ!!」
体力オバケな変人コンビに声をかけ、俺も清水から受け取ったスポドリで喉を潤した。
身体と意識が落ち着くと気になるのは藍原のこと。
俺に寄って来ない姿を探して視線を動かすと、大きなタオルをバサバサと振り、選手達に少しでも風を送ろうとする藍原が見えた。
「献身的ですね、彼女は。」
「俺もそう思うわ。」
もう一口スポドリを口に含むと、ちょうど影山がジャンプサーブのモーションに入り、構えた日向の真正面にボールがぶち当たる。ネット際のセッター位置に上がるはずのボールは、休憩中の3年、の中の背を向けている藍原めがけて向かっている。
「っぶねぇ!!」
俺が声をかけるのとほぼ同時。藍原の身体を抱き寄せて守りつつ、片手でボールを弾いた東峰。
「あさ、ひ…」
ぽつりと呟かれた名前を、俺は聞き逃さなかった。
だって藍原はいつも『東峰』と苗字で呼んでいたはずだったから。