第2章 if~貴方に忠誠を~
「さって、そろそろ屯所に帰るか。」
原田の言葉に隊士達は頷いて屯所の方角に歩いて行く。千鶴も原田の隣を歩いていたがふと、目の前に人影が見えて何気なく視線を向けた。
「こんにちわ。」
突然声を掛けられて千鶴は目を見開く。今まで声をかける事はあっても、かけられる事はない。緊張と警戒が走る。原田も視線を鋭くさせ千鶴を庇うように前に出た。
「こいつに何か用か・・・?」
「えぇ、まぁ・・・そんな所です。よければこれから甘味屋に行きませんか?」
ニコニコ人の良い笑みを浮かべながらコトリと首を傾げる彼に千鶴は見惚れた。まるで、絵に描いたような綺麗な顔立ちをしているからだ。着ている物も全て上質なもので気品が出ている。だからこそ、突然声をかけられた事に戸惑いを隠せない。
「あの・・・」
「それは出来ねぇ誘いだな。」
厳しい声で怪訝そうに男を見る。男は目を丸くして原田を見た。不本意だと言わんばかりに。
「おや、私は千鶴ちゃんに聞いているんですけど。」
「え・・・?」
「お前・・・」
何故名前を知ってるのか千鶴は困惑する。男はニコニコ微笑むだけ。
それに今、千鶴ちゃんって言った・・・?
「ちっ・・・」
その意味を当然原田も察しない訳なく隊士に先に帰るように声をかけた。
「あんた何者だ?」
険悪な雰囲気で張り詰めた空気が流れ千鶴の肩に力が入る。
「千鶴ちゃん、私を覚えていませんか??」
存在していないかのように原田の言葉には耳を傾けず千鶴に問いかける。ピクリと原田の眉が跳ねる。千鶴はそんな原田を気にしながら男の言葉に顔をまじまじと見た。
どこかで会った事があるのかいくら考えても思い出せない。千鶴は困ったように眉を下げ首を横に振る。
「ごめんなさい・・・」
「それは残念ですねぇ。けど、無理もありません私達が一緒にいたのは子供の頃ですから。」
「子供の頃ですか?」
「はい。私は瀬野悠真よく一緒に遊びましたよね千鶴ちゃん。」
名前を聞いて千鶴は目を見開いた。小さい頃、よく一緒遊んで守ってくれていた兄的存在だった。