第12章 現実世界。
「えっと…なんでそんな事を聞くんですか?」
私がそう尋ねると、
樋渡さんはにっこりと笑った。
「僕はこの世界から出ることが出来ないからね。すごく気になるんだ。君たちの世界が。」
「…あれ?でも、樋渡さんは前、優月さんの行きつけのバーのマスターだったんじゃ…?」
そう。
確か、樋渡さんは元々優月さんの行きつけのバーのマスターで、優月さんをゲームに誘い入れた人のはず…。
「あぁ、幸蔵の事かい?君たちの世界の幸蔵は僕ではなく、彼自身だったのさ。僕が幸蔵を支配できるのはゲームの世界だけだったからね。」
「あ…えっと…なるほど…。あ、そっか、樋渡さんはシステム…なんですもんね。」
私がそう呟くと、
樋渡さんは少しだけ驚いたような顔をした。
その顔に思わずはっとなり口を押さえた。
「…ふぅーん?もうそこまで嗅ぎつけてるんだね。じゃぁ、僕の本当の名も?」
樋渡さんはニヤリと笑って
頬杖をついたまま私をじっと見つめた。
「…アカシック…レコードさん…?」
「そう。僕の名はアカシックレコード。君の言う通り僕はシステム。よって、僕はこの世界でしか存在できない。」
そういう樋渡さんの顔は少しだけ寂しそうだった。
「…。」
そうだ。
彼は人間ではない。
システムに感情というものがあるのかなんて私には、
よくわからなかった。
もしかしたら、
それは寂しそうに見えただけで、
ただの無表情だったのかもしれない。