第11章 アカシックレコード
陽くんは私を乗せたまま
急な坂を上り始めた。
「うぉぉぉぉぉ!!!」
陽くんは立ち漕ぎになり、
一生懸命漕ぐも、なかなか進まない。
「あ、押すよ。」
私は自転車から降りると、
後ろから自転車を押した。
「むー…。ありがとう。」
陽くんは何やら不満気だったが
しばらくすると、自分も自転車から降りて、
手で押して進みはじめた。
坂を上り終わると、小さな広場のような所に出た。
陽くんはその入り口に自転車を止めると、
私の手を握り歩き始めた。
「ここまで昇るのは大変なんだけどさ、景色いいんだ。ここ。」
陽くんは嬉しそうにくしゃっと笑った。
陽くんに連れられて、
広場の端の桜の木の下に行くと、
そこからは見慣れた街が一望できた。
既に暗くなり、ぽつぽつと明かりが灯った家は
まるでキラキラ光る宝石のようだった。
「わぁー!すごい!キレイだね!」
私が笑顔で陽くんの方を見ると、
陽くんは私から思いっきり顔を逸らした。
「…?」
私…なんかしたかな?
「あ、あのさ。俺とおっさんとお前が出会ってまだ1週間も経ってないけどさ…俺、もっと前から仲良かったような不思議な感じがするんだ。」
陽くんは夜景を眺めながらそう言った。
「うん。そうだね。」
私も夜景に目を戻した。
「でもさ、俺、お前の事だけはもっと前から知ってたんだ。」
「え?」
私は再び陽くんの方を見た。
「お前さ、新入生挨拶の時噛みまくりだっただろ?」
陽くんは笑った。
「うぅ…だって、式の直前になって本来する予定だった人が出来なくなったからって私に回って来たんだもん…。」
私は顔が熱くなるのが分かった。
思い出したくない恥ずかしい思い出なのだ。