第1章 第一章
「宗次郎。婆さんはどうする気や?」
「えっ・・・・・・」
「世話になったんやからお線香の一つでも上げたらんと。なぁ?」
張という人が再び中に入ってきた。
「そこの婆さん、うちが預かるわ。ねぇちゃん、どいてや」
私は通路の脇に避けた。
宗次郎が私に近寄ってくる。
「時音さん・・・・・・お婆さんに別れを告げましょう・・・・・・」
宗次郎が切なそうな顔で言った。
「うん・・・・・・」
私と宗次郎は張という人に抱(いだ)かれているおばあちゃんに近寄った。
「おばあちゃん・・・・・・」
おばあちゃんの手を握ったら涙が次から次へと溢れてきた。
見知らぬ私のために包帯や白湯を差し出してくれたおばあちゃん。
温かい囲炉裏で私を温めてくれて美しい着物を貸してくれたおばあちゃん。
亡くなってしまったなんて・・・・・・。
「お婆さん、ありがとうございました」
宗次郎が涙をこらえているような声で静かにおばあちゃんに別れを告げる。
「この婆さんの葬儀はわいがやる。あんたら二人は誤解されんよう早うこの家を出るこっちゃな」
「張さん・・・・・・すみません・・・・・・僕を庇ってくださってありがとうございます」
「安心せぇ。お前の事は隠したるから。しかし、和泉守兼定を持っている限り、連中に狙われる。警視庁もいずれお前の足を突き止めるやろ。警視庁に和泉守兼定を預けるのが一番手っ取り早いんやけど・・・・・・」
「それはできません・・・・・・」
「まぁ、そう言うと思ったわ。警視庁に見つからんよう和泉守兼定の扱いには充分注意せい。ほなな」
張という人は去っていった。