第3章 優しいキスをして〈3〉
────今とても幸せなの。
うちのお腹には愛するあの人の子供がおるから。
物心ついた頃から何となくわかってたんよ。うちの体はポンコツ。
ちょっと体を動かすと息が乱れて苦しくなる。まるで手足に鉛をつけたみたいに重くなって動けなくなるんよ。
友達と一緒に鬼ごっこも出来へん。
小さい頃は
「なんでうちはみんなと遊べへんの?うちも遊びたい……っ!」
「うちばっかりガマンしてるなんて神様はいけずやっ!」
よう泣いて、文句ばっかり言ってお母ちゃんを困らせておったわ。
「でも今はちゃうよ……めっちゃ幸せやねん」
大きくなったお腹。時々お腹の中で暴れる元気なうちの赤ちゃん。
「はよ会いたいわ……」
お腹に触るたんびに胸が苦しくなる。でも、その痛みはいつもの苦しさとちゃうねん。
幸せで泣きそうになる苦しさや。
「お母ちゃん、めっちゃ幸せやで……陽斗……はやく声を聞かせてや」
産まれてくる子は男の子や。名前ももう決めとる。
【陽斗】
春の陽射しのような優しい子に育ってもらいたい
そんな願いを込めて……
「……ぁ……また蹴った。陽斗はやんちゃやね」
小さい頃からいっぱいガマンしてきたうちとは違う生き方をしてもらいたいな。
「これから家族3人で仲良う暮らそうな」
今の幸せを噛みしめながらカレンダーを見つめる。
「はよ、出張から帰ってきてや。めっちゃ会いたいねん」
今日の日付けには花丸。
うちの大好きな人は今日出張から帰ってくる。