第1章 おくすりのんだら
*
さて、帰宅したことだし。
さっそく、飲んでみますか?
ゴク、ゴク、ゴクリ。
その液体は、飲むたびに、口いっぱいに苦味が広がっていった。
「えっ、これ、苦……今時の栄養ドリンクでもここまで苦くないよ?」
顔をしかめて小瓶を睨む。
「あれ?なんか……からだがあつい……?」
フラっ、と一瞬立ちくらみが起こり、所在をなくしたビンがカラリと落ちる。
その音から、危うく破損はまぬがれたようだ。
慌ててゴシゴシとまぶたを擦ると、
目の前には信じられない光景が広がっていた。
「は?」
それは、いつも見慣れたものが倍の大きさになってしまったかのような感覚。
というより、自分自身が小さくなってしまったようだ。
ブカブカの服をつまみ、十四松くんみたいだ、なんて考えて笑う。
って、そんな場合じゃない。
慌てて鏡に駆け寄る。
そこには、幼くあどけない遠い昔の自分が居た。
「……えええ?!うそ……」
推測するに、おおよそ7歳くらいだろうか。
「もしかして……でかぱんはかせのくすりをまちがえちゃったのかなぁ?!」
高くて無邪気な声は、本当に自分の声なのか信じがたいほどだった。
「とりあえず、でかぱんはかせのしじをあおがないと。」
……と、服がズルズルなままだった事を思い出す。
慌てて持っているなかで一番小さめのパーカーを引っ張り出す。
これでも、この姿だとかなりゆったりめのワンピースだ。
それと、趣味で作ったミニチュアのポシェットが役に立った。
脱げないよう、親指に力を入れ、ビーチサンダルをペタペタと鳴らす。
そうして玄関に向かったはいいものの、大変なことに気付いた。
ドアノブに手が届かないのだ。
小学生の私は、身長がかなり低いほうで、
背の順でも1、2を争う方だった。
なにか踏み台になるものはないかと探した挙句、いつもカラ松くんが使っている
腰掛け椅子を使うことにした。
ようやくドアを開けることができ、外に出ると、いつもの街が未知の世界で
まるで自分が冒険しているかのようなわくわくした気持ちを覚えた。
「こんなかんじ、こどものとき、いらいだなぁ……」
どこからみても幼児の自分が言うことではないが。