第1章 おくすりのんだら
「ああ、そうダス。前にカラ松君に頼まれたそのドリンクを持って行くダス。」
そういうと、博士は沸騰したフラスコから目を離さないまま、目線の反対側を指さした。
「カラ松が……?」
「ホエェ、マイハニーの体調がすぐれないようだから、栄養剤が欲しいと頼まれたダス。
全く、いい男を捕まえたもんダスなぁ。」
たしかに、数日前から調子が優れていないのは確かで、
今日も、カラ松くんは自分が行こうか、と何度も申し出てくれた。
でも、仕事で頑張ってくれているカラ松くんに、これ以上負担をかけるわけにはいけないと、
大丈夫大丈夫、と押し切ってようやく、そうか、と言ってくれたのだ。
でもカラ松くんには、お見通しだったらしい。
「わざわざありがとうございます。」
滲む涙を手で抑えながら、礼を述べる。
「ホエホエ、これくらいお安いご用ダス。そこの机に乗ってるダスよ。」
机、と言っても……この実験器具に埋もれた机から探すのだろうか。
と、ふと、折り重なった器具のなかから、かろうじて「ドリンク」と書かれたラベルが見えた。
引っ張りだすと、小瓶に入った液体が怪しく揺れた。
どうやらこれが博士の言う「栄養ドリンク」みたいだ。
「あの、これであってますか?」
博士に確認を取ろうと振り返ると、聞こえていないのか、
彼がひたすらメモ用紙におびただしい記号を書き連ねているのが見えた。
お邪魔してはいけないな……
「あの、博士。お邪魔しました。ありがとうございます。」
きっとその耳には届いていないであろう言葉を残して、
私は研究所を立ち去った。