第21章 罪と罰①
また悪夢を見た。
「しかも今日は、あの日のままの夢だった。」
あまりの恐怖にリケ夫に電話。
時刻はまだ5時半だというのに、起きてくれたリケ夫には感謝としか言いようがない。
「あの日って?」
「大学内で殴られたあの日。」
「あぁ・・・。」
察したリケ夫は黙り込む。そりゃそうだ。口数が多い方じゃないリケ夫でなくても、なんと声をかけていいのか分からなくなるだろう。
「大学の中を同期の男と歩いてて、偶然タナカさんと遭遇したんだけど、浮気と勘違いされて殴られたんだ。」
リケ夫からの返事は無い。
「同期が止めようとしてくれたんだけど、逆に殴られちゃって。」
巻き添えを食らった同期は、口から血を流すまで殴られ続けた。
当時の彼氏だったタナカさんは、ヤンデレとでも言うようなDV男だった。
きっかけはあたしの浮気だった。
「他の男と遊ばないでくれ。」
「連絡先を消せ。」
「俺のことが好きなら、言うこと聞けよ。」
少しでも嫌な態度をとったら、暴力を振るわれた。
「俺はもっと傷ついたよ?」
そう言われると、言い成りになるしかなかった。
事実、あたしは浮気した悪者であり、裁かれる必要があったのだから。
「あたし、今でも分からなくなる。」
殴られた同期や、現場を見ていた周囲の通報によって、タナカさんは退学となった。
「それでお別れという形になったけど。」
あれはタナカさんが悪かったのだろうか?
悪の根源はあたしだったはずじゃなかったのか?
なぜ傷ついたタナカさんは大学を追い出され、傷つけたあたしはのうのうと大学に居残れていたのか?
「タナカさんの未来をめちゃくちゃにしたのはあたしなのに。」
なぜあたしは、幸せな未来を生きているのだろうか?
リケ夫からの返事は無い。
「あたし、あの事件の時、酷いこと思ったんだよ?」
3年経った今でも忘れない。
あの時のことで、あたしが一番覚えているのは、タナカさんの狂った表情でもなく、流れる同期の血でもなく・・・目撃者の叫び声だ。
「キャーとか、うわーとか、そんな生易しいものじゃなくて・・・筆舌に尽くしがたいって言うか・・・。」
いくつものとんでもない音量と、緊迫感と、混乱。
「見られた!しまった!知られた!って、その場を隠蔽してしまおうと取り繕ったの。」
通行人に、なんでもない、なんでもないって。
殴られる同期の横で、必死に。