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リケ夫くんとビチ子さん

第22章 罪と罰②


「あの時あたしは、殴られる同期の体より、真実を晒されることを恐れたの。」

事を大きくしたくない。
あたしという汚い存在に視線を注がないで。
このまま、平穏に、そっとしておいて!

「結局、タナカさんに『テメェがまた浮気するのが悪いんじゃねーか!』って叫ばれて、全てが知れ渡ったんだけど。」
それ以上に、同期を助けようとしなかった事と、「DV男と付き合い続けていた女」として、白い目で見られた。
昨日まで仲がよかったクラスメートは、面倒ごとは嫌だとでも言うように、誰もあたしに話しかけなくなった。
すれ違った見知らぬ人が「ほら、あの子だよ・・・。」と面白がって噂話していたこともあった。
大学に行きづらくなって、引きこもりがちになった。


「当たり前なのにね。」
あたしは殴られて、踏み潰されて、裁かれて当然だったのに。
裁かれたのはあたしではなく、タナカさんだった。
「もっと罰を受けなきゃダメかなぁ・・・?」
まだあたしはあの頃のまま、心を蝕まれて、泣いているのだろうか?






「ビチ子はもう十分辛い思いをしたと思うよ。」
リケ夫の低く優しく、でもしっかりとした声が鼓膜を震わせた。
「ビチ子の言う裁きがあったとすれば、それはもう執行されたはずだ。」
「・・・DVのこと?」
「その他諸々含めて。もちろん暴力は、何があっても絶対許されない行為だけどね。」
許されない行為・・・。
「だから彼の退学は、暴力という手段を選んでしまった彼の、自業自得なんだと僕は思うよ。」
「そう・・・かな?」
「うん。」
涙がまたひとつ溢れた。
「ビチ子、すぐ立ち直れとは言わない。でも、そんなに自分を責めなくていいんだよ。」
電話向こうなのに、撫でられた気がした。
「ビチ子はもっと自分を大切にした方がいい。」
「大切に?」
「うん。幸せになってほしい。」
涙が枕を濡らした。鼻をすする。
「幸せって・・・なんか怖い。」
「怖い?」
「・・・抵抗がある。」
許されないことのようで、時々、尻込みしてしまう。


「じゃあ、幸せにするよ。」
涙が止まった。


「え?」
「僕がビチ子を幸せにする。いっぱい。これから先ずっと。だから幸せになろう?」
優しい提案に、遅れて涙が答えた。
「うん。」

リケ夫さんと出会えて、よかった。
「ありがとう・・・っ。」
愛を教えてくれて、ありがとう。
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