第18章 チャームポイント(リケ夫、ゴムゴム編)
ついつい触ってしまうところ、というのは誰にでもあると思う。
髪とか、指とか。彼女のほっぺたとか、彼氏の腕とか。
ビチ子はつい前髪を抜いてしまうと言っていた。抜毛症かもしれないと。ストレスから来るその自傷癖にも似た癖は、彼女の心を思うと可哀想になってしまう。
そして僕の場合は。
「ふふーん。むにむにー。」
ご満悦そうにビチ子が触っているのは、僕のあご。
「ホントに好きだねぇ。」
「マシュマロみたいなんだもん。触るの久しぶりだし。」
2ヶ月ぶりに会った僕のあごに対して、「元気だった?」と問いかけるビチ子。
「元気だよ!」裏声で答える僕。けたけた笑って撫でてくれるビチ子。
本当に僕のあごに自我が芽生えるのも、時間の問題かもしれない。
「そんなに柔らかい?」
「A5ランクの和牛ぐらい柔らかい。」
「マジか。希少部位だからありがたく味わってね。」
「ありがたやありがたや。」
よく分からないテンポで進む会話。そろそろ漫才のコンビが組めそうだ。
「そもそもちょっとあごが長いよね。」
「まぁ、ビチ子と出会う前に矯正しちゃったけど、受け口だったからねぇ。」
「それにしてもその柔らかさは稀有だよ。」
「悩むとついあごをいじっちゃう癖があるからかなぁ?」
むにーっと伸ばすと、ビチ子も失礼なほど大笑い。
「そんなに面白い?」
「面白い。」
「こんなにあごを弄られたのは、人生でビチ子だけだよ。」
「えぇー!?今までの人達はリケ夫さんの何を見ていたの!?」
「そこまで言う?」
僕の魅力はあごしかないのだろうか。
むにーっ、伸ばして曲げる。
「えっ!?ちょ、曲がった!?えぇっ!?」
「えっそんなに驚くこと?」
何をそんなに騒ぎ立てるんだろう?
「普通は曲がんないよ!!何このあご!?ゴム製!?」
「いや、普通曲がるって。」
「曲がんないよ!?」
ビチ子が自分のあごを引っ張る。伸びない。上に向けて曲げるも曲がらない。つまんだ程度だ。
「いやいや、曲がるって。」
「曲がんないって!」
「ビチ子のあごが硬すぎるだけじゃない?あごが曲がるなんて普通だって。」
「そんなことな・・・えぇー!?」
ビチ子は納得いかない顔のまま、しかしこの場は引き下がった。
「周りに聞いてくる。あごが曲がるかどうか。」
「うん、多分みんな曲がるよ。」
「曲がんないって!!」
あごぐらい曲がるよね?みなさんはどう?