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リケ夫くんとビチ子さん

第15章 悪夢


目が覚めると、そこはいつもの部屋だった。
ここは大阪。時刻は午前6時48分。
少し雲が見える晴天で、洗濯日和らしい今日は、のんびりできる日曜日だ。
「・・・。」
いつも通り大きなぬいぐるみの背中を抱えた寝相のまま、あたしはベッド横の白い壁を眺め続ける。
「・・・。」
そしてまた惰眠を貪ろうと目を閉じた。

夢を見た。またあいつだ。

こうして夢を振り返っている間にも、先ほど見たはずの夢が記憶の器から零れ落ちていくのが分かる。
どうして夢というものは、つい1分前に見たものでさえ忘れてしまうのだろうか?
もうあたしの頭の中には、アレルギー源のように強烈なあいつのイメージしか残されていない。
頭が痛くなることはなくなったが、それでもなんとなく重苦しい気持ちになるのは止められなかった。

タナカさん。大学の先輩。
あたしの元彼。
・・・DV男。

夢というのは不思議なもので、いくら非現実的でファンシーな夢だったとしても、そこに登場してくれるあたしの知人達は、現実世界となんら変わりない立ち振る舞いしかしないらしい。
仲のいい友人は隣で笑っている。仕事の上司は少し遠いところで何かやっているモブ的な配置。
タナカさんは夢の中でなお、あたしをあの表情で見つめてくる。

「大丈夫、大丈夫。」
自分を落ち着かせる魔法の呪文。つぶやいてぬいぐるみを抱きしめる。
あれはもう3年も前のことで、物理的に会える距離でもなく、夢も3ヶ月に1度ぐらいしか見なくなったのだから。
「大丈夫、大丈夫。」
リケ夫を思い浮かべたら、胸の鼓動が音を潜めて、息がしやすくなった。
大丈夫、大丈夫。
そのままあたしは随分と簡単に意識を手放した。




次に目を覚ましたら、時計は正午になろうという時間を告げていて。
二度寝で夢を見ることはなく、あたしはシャキッとした目で体を起こした。
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