第12章 大切にするよ
お仕事で失敗した。
「しょぼーん。」
「それはしょぼーんだねぇ。」
電話の向こうのリケ夫が相槌を返してくれる。
今回の失敗は、見積もりのチェックが甘く、赤字スレスレの利益しか取れなかったことだ。
「・・・あたしまだ1年目だし、これ初めての案件だったし、そんなもんだよね。」
「うんうん。お金のやりとりなんてベテランでも難しいよ。」
何かアドバイスをするわけでも、僕はこう思うと言ってくるわけでもないんだけど、それが女子にはありがたいことでして。
こうしてただ聞いてくれるだけの男性は貴重だし、本当にいい人を捕まえたなーと思う。
・・・捕まえたというより「飛んで火に入る夏の虫」状態だったんだけど。
「うえーん!頭撫でてー!」
「おぉーよしよし。」
なでなで、とは言われても電話越しでありまして。
あたしの頭は乱れることなく、いつも通りの髪型を維持していた。
「リケ夫のちょっとカサカサな手で撫でられたーい。」
「カサカサな手って。」
リケ夫は笑うけど、本当に男性的でカサカサなんだもん。初めてのクリスマスプレゼントにハンドクリームをプレゼントしたぐらいカサカサなんだもん。
「でもリケ夫の撫で方は優しくて好きよ?」
「そうかい?」
「こんなに大切にされていいのかしらってぐらい優しいよね。」
「そんなに喜んでもらえてたなら嬉しいねぇ。」
ふふっと笑うリケ夫の声を聞きながら、ふと気付く。
リケ夫はあたしが出会ってきたどの男性よりも、あたしのことを大切にしてくれた。
あたしがこんなに汚いビッチなのに、だ。
いろんな男性から言い寄られたりデートしたりしてきたあたしだけど、あぁ愛ってこういうことなんだって教えてくれたのはリケ夫だけだった。
・・・あたし、リケ夫を大切に出来ているのかな?
癒したり、優しくしたり、幸せに出来ているのかな?
「あたし、リケ夫をもっと大切にするね。」
「どしたの急に?」
あなたはいつだって愛を教えてくれる。
生きててよかった。