第10章 経験人数①
ある日のビデオ通話。
「ビチ子さぁ。」
「ん?」
「付き合った人数は僕で6人目で、経験人数は9人って言ってたよね?」
「そうそう、多分。」
「その多分って何?」
「大学時代の記憶が曖昧なんです。」
「あー・・・。」
ビチ子は大学でいろいろ苦労したストレスからか、「何をしていたか分からない」という事が多い。
ストレスのあまり留年までしたビチ子の大学生活5年間は、彼女にとって「楽しい青春でした!」とは言い切れないものらしい。
まぁ、過ぎ去ったことはさっさと忘れる性格なだけかもしれないが。
「忘れちゃうものなんだねぇ・・・。」
ビチ子の話を聞いている限りだと、彼女に言い寄ってきた男の8割は僕と同様、本気で彼女のことが好きだったようだ。それを忘れられるようじゃ男達にちょっぴり同情してしまう。
と同時に安心してしまうのも本音だったりする。
でも一番は、それだけ辛い思いをしてきたビチ子が心配で、これからの幸せを願い、幸せにしてあげたいと思う気持ちでいっぱいになる。
「だいたいね、言い寄ってきた男がこの3倍ぐらいいるんだよ?いちいち覚えてらんないよ。」
そんなにいるのか。嫉妬してしまう。
「リケ夫は人生で食べたトーストの枚数を答えられる?無理でしょ?そういうもんなの。」
あーそれは覚えてないわー。覚えてないのも仕方ないね。
・・・いやいや、待て待て。
「んーっと、ちょっと聞いてもいいかな。9×3でしょ?トーストほど人数多くないと思うんだ。」
「リケ夫ってボケもツッコミもキレと勢いがないよね。本来ツッコミ気質のあたしが頑張ってボケてるのに、これじゃまるであたしが面白くないみたいじゃないか。」
関西人はお笑いに厳しい。