第12章 つぶやき【おそ松】
それから、わたしたちは、普通のカップルがするようなデートをした。
ごはんを食べて、
手をつないでウィンドウショッピングをして、
ゲームセンターでUFOキャッチャーをして、
喫茶店でパフェを半分こした。
正直、おそ松くんはわたしの彼氏なんじゃないかと錯覚してしまうほど、楽しい時間だった。
おそ松くんは、始終優しくて、わたしを気遣ってくれた。本当の彼女みたいに扱ってくれた。
だから、油断していたんだ。
「あー、楽しかったね」
喫茶店を出ると、外はすっかり暗くなっていた。
腕時計を見ると、もうすぐ晩ご飯の時間だった。
「そろそろ帰ろうか? それとも、もう少し寄り道していく?」
おそ松「あー……うん。てか、今日は家には帰らないよ?」
「え?」
家には帰らない?
おそ松くんの言葉に、わたしは首をひねった。
それは、つまり。
お泊まりってこと?
「どこに泊まるつもりなの?」
というか、この近場だったら、泊まるよりも家に帰ったほうがいいんじゃ……?
おそ松「そんな心配そうな顔すんなって。大丈夫だよ。俺についてきて」
「あっ……ちょっと」
おそ松くんは、わたしの手をひいて歩き出す。
どうやら、泊まりは予定の範囲内だったらしい。
でも、一体、どこに泊まるつもりなんだろう。
オールでカラオケするつもりとか……?
それとも、これから飲みにでも行くつもりなのかな?
いろいろと考えをめぐらせていると、おそ松くんの足が止まった。
我に返ると、そこは、ピンク色の外壁ときらびやかなネオンの看板が目をひく、いわゆるラブホテルの目の前だった。
「え……? ラブホ?」
おもわず、顔を引き攣らせる。
「まさか、ここに泊まるつもりなの……?」
おそ松「そーだよ? だって、今日1日、俺はさくらの彼氏だろ? デートの最後にこういうとこに来たってべつにおかしくねーじゃん?」
「あ、い、いや、そうかもしれないけど! おそ松くん、ふつーのデートって言ったじゃん!」
おそ松「ふつーのデートじゃん。どっちにしろ、さくらに拒否権はありませーん」
そして、おそ松くんは、さっきよりも強い力でわたしの手を引いた。