第12章 つぶやき【おそ松】
こうして、わたしは、今日1日、おそ松くんとふたりでデートすることになった。
おそ松くんが、本当は何を考えているのかはわからないけど、でも、今のわたしには黙ってついていくという選択肢しかない。
服を着替えて、お化粧をして、おそ松くんと連れ立って家を出る。
おそ松くんとお出かけなんて、なんだか不思議なかんじがする……
おそ松「ん、ほら」
不意に、右手を差し出された。
つまり、手を繋ごうということなんだろう。
わたしは、その手におずおずと自分の左手を重ねた。
指を絡ませ合って、いわゆる恋人つなぎというやつをする。
おそ松「さくら、手ちっさ!」
「そ、そうかな……?」
おそ松「女の子の手ってかんじ」
「そりゃあ……女の子だからね」
わたしの言葉に、おそ松くんは、声をあげて笑う。
なんか……
こうして見ると、すごく普通の男の子に見える。
普通の、
優しい、
男の子。
いつもこうならいいのに……
なんて思いが頭をよぎる。
「……で、どこに行くの?」
おそ松「そうだなー。とりあえず、メシでも食う? 腹減っただろ?」
「うん……そうだね。ごはん食べたい」
おそ松「じゃ、決まりな」
おそ松くんは、アテがあるのか、手をつないだまますたすたと歩き出す。
こういうところ、男らしくていいかも。
なんて。
そういえば、おそ松くんは、高校時代、女の子からモテていた。
クラスでも、おそ松くんのことを好きだと言っている女の子はたくさんいたし、現に何度も告白されている場面を目撃したこともある。
なのに、おそ松くんは、彼女をつくらなかった。
どんなに可愛い女の子の告白も、頑なに断り続けていた。
「もったいない……」
おそ松「え?」
「ううん、なんでもないよ」
あんなにモテるのに。
普通にしていれば、すごくいい人なのに。
なんで、わたしのことなんか好きなんだろう、この人は……
というか。
本当にわたしのことが好きなんだろうか?
本当にそれだけなんだろうか?