第10章 十四松のひみつ【十四松】
その瞬間、
つかまれた腕を背後の壁に押し付けられて、強く押さえ込まれた。
十四松「そういうとこがバカだって言ってるんだよ。わかんないの?」
「……っ」
十四松「おれを助けたいとか言ってるけどさ、じゃあ、おれが抱えてるものを全部受け止めてくれるの?さくらちゃんは、それができる? そんな覚悟もないくせに、軽い気持ちでそんなこと言うのやめてくれないかな?」
「じゅうしまつ、くん……」
軽い気持ち?
わたしのこの気持ちは、ただの偽善なの?
いや、そうじゃない。
十四松くんは、確かに、今まで、お兄さんたちと一緒に、わたしにひどいことをたくさんしてきた。
でも、わたしは、十四松くんのことを嫌いになれなかった。
何故なら、十四松くんの笑顔が好きだったから。高校のころも、そして、今も。
だから、十四松くんが苦しんでいるなら、助けてあげたい。十四松くんには、笑っていてほしい……!
「十四松くん……っ」
わたしは、わたしの腕をつかんでいる十四松くんの手に、反対側の手を重ねた。
「十四松くん、聞いてっ」
十四松くんの目を、まっすぐに見据える。
「十四松くんはうざいって思うかもしれないけど、わたし、やっぱりあなたを助けたい……! あなたが抱えてるもの、わたしにも分けてほしい!」
十四松「……ッ!」
十四松くんの目が、大きく見開いた。
「何があなたをそんなに苦しめてるのか、教えて。自分を傷つけたりしないで、ぜんぶ吐き出して。わたし、ちゃんと受け止めるから……っ」
十四松「……さくら、ちゃん……」
十四松くんの背中に腕を回して、そっと抱き寄せる。
その瞬間、十四松くんの苦しみが、悲しみが、心の痛みが、抱きしめた手を伝わって流れ込んできたような気がした。
「今すぐにとは言わないから……わたしに話して。十四松くんが思っていること。感じていること」
十四松「さくらちゃ……う、グス、うっ、」
十四松くんは、糸が切れたように泣き出した。
子供をあやすようにぽんぽんと背中を優しくさすってあげると、十四松くんは、ますます大きな声をあげて泣いた。
十四松くんは、ずっと、いろんなものを抱えてきたんだね。