第10章 十四松のひみつ【十四松】
その日の夜。
夕飯が終わって、みんなが銭湯に行ってしまい、わたしは、7人分の布団を敷いて眠る支度をしていた。
と、そのときだった。
十四松「ねーねー、さくらちゃん」
不意に、押し入れの扉があいたかと思うと、みんなと一緒に銭湯に行ったはずの十四松くんが、姿を現した。
あまりにも突然の出来事に、思わず、うわあ!と声が出た。
「じゅ、十四松くん……びっくりさせないでよ」
十四松「えへへへ〜、ごめんね?」
「みんなと銭湯に行ったんじゃなかったの?」
十四松「うん。おれ、もうしばらく銭湯は行ってないよ? しらなかった?」
そう言って、十四松くんは、パーカーの袖をまくった。
血のにじんだ包帯に包まれた手首。それを見た瞬間、思わず息をのむ。
十四松「これ、見せるわけにはいかないからさー」
何も言葉を返せなかった。
十四松くんは、わたしのほうへ近づいてくると、わたしの腕をつかみあげた。
「いっ……!」
十四松「昼間、カラ松兄さんに言おうとしてたでしょ?」
十四松くんの口からは、笑みが消えていた。
また、このまえと同じだ。
わたしがカッターを取り上げたときと同じ、あの冷たい瞳が、わたしを見下ろしている。
「ご、ごめんなさい……わたし、」
十四松「カラ松兄さんに言ってどうするつもりだったの? カラ松兄さんならおれを止めてくれると思った?さくらちゃんの味方をしてくれると思った?」
「そういうわけじゃない……けど、あなたを助けたかったの……!」
十四松「ほら、また。言っとくけど、カラ松兄さんはさくらちゃんの味方なんてしてくれないよ?」
「え……?」
十四松「さくらちゃんが、カラ松兄さんをどんな人間と思っているかは知らないけど、おれがこういうことしてるって兄さんに言っても、兄さんは何も解決してくれないよ」
「それって、どういう意味……?」
十四松くんは、うっすらと不気味な笑いを口元に湛えた。
それは、まるで、わたしを馬鹿にするような、嘲笑するような、冷たい笑みだった。
十四松「ほんっとバカだよね、さくらちゃんって」
「……っ、よ、よくわからないけど、そんなことはどうでもいいよ。たとえ、カラ松くんが力になってくれなくても。わたしはあなたを助けたい!」