第10章 十四松のひみつ【十四松】
十四松「あ……さくらちゃん!」
「こんなところで何してるの?……え?」
思わず、わたしは動きを止めた。
十四松くんの右手に握られていたのは、
刃が飛び出たカッターナイフ。
そして、左手の手首には、無数の傷が刻みつけられ、どくどくと血がしたたっていた。
「十四松くんっ……!?」
わたしは、あわてて十四松くんに駆け寄り、その右手からカッターを取り上げた。
「何してるの!? これ、どういうこと!?」
十四松「えー? どういうことって、なにがー?」
痛いだろうに。十四松くんは、笑顔を崩さない。
これは、つまり……
リストカット?
十四松くんが?
そんな……なんのために。
「待ってて! 今、救急箱を……!」
十四松「まって、さくらちゃん」
十四松くんの左手が、わたしの腕をつかむ。
つかまれた腕に、十四松くんの血液がぎっとりと付着した。
十四松「手当てなんかしなくていいよ? 」
「なんで? 痛くないの?」
十四松「痛いよ?」
「じゃあなんでこんなことするの……!」
まさか、十四松くんがリストカットをしているなんて、思ってもみなかった。
彼がいつもパーカーの袖を伸ばしているのは、傷を隠すためだったの……?
「みんなは……知ってるの?このこと」
十四松「さあー? 知らないんじゃないかな?」
「十四松くん……やめてよ。こんなこと」
十四松「なんでさくらちゃんがそんなつらそうな顔するの?」
「だって、十四松くん……」
十四松「うざいんだけど」
…………え?
十四松くんの口から発せられた十四松くんらしからぬ言葉に、思わず息をのむ。
十四松くんを見ると、十四松くんは、口から笑みを消していた。
普段の十四松くんからは想像もできない、まるで、わたしを軽蔑するような冷たい瞳がわたしを見下ろしている。
十四松「さくらちゃんに何がわかんの? もうこんなことするなとか、いい人ぶっちゃってさ。バカじゃないの? 」
「じゅうしまつくん……?」
十四松「それ、返して。さくらちゃんには関係ないでしょ?」
十四松くんは、わたしがさっき取り上げたカッターを指差した。