第10章 十四松のひみつ【十四松】
松野家で生活し始めて、1週間が過ぎ、2週間が過ぎ、……だんだん時間の感覚がなくなってきた。
小父さんと小母さんは、未だに帰ってこない。
ふたりは本当に海外旅行に行ったのだろうか。
けれど、そんなことは、わたしには関係ない。
もう、……わたしには関係のないことだ。
あの日から……トド松くんが夜中にわたしの首を絞めた日から、トド松くんは、家にあまり帰って来なくなった。
その代わりに、一松くんが妙に優しくなった。
一松くんは、わたしに身体を求めてこなくなった。
カラ松くんも、一緒に散歩に出掛けた日に身体を重ねたのが、最初で最後だ。
今、わたしに身体を求めてくるのは、おそ松くんとチョロ松くん、そして十四松くん。
けれども、そんな十四松くんの様子も、このごろおかしいのだ。
いや、このごろ、ではない。
十四松くんは、最初から、おかしかったのかもしれない。
「十四松くん……?」
冷蔵庫の麦茶をとるために足をふみいれた台所には、すでに先客がいた。
彼は、台所の隅にうずくまって、こちらに背を向けていた。
めずらしく、普段のびきったパーカーの袖で隠している腕が外に出ている。
「十四松くん……なにしてるの?」
おそるおそるたずねると、十四松くんの顔がわたしをゆっくりと振り向いた。
いつもの、笑顔だった。