第9章 もっと欲しい【トド松、おそ松】
夜の家は、たしかに声が響く。
わたしの声が二階まで聴こえてもおかしくはない。
おそ松「声、ちゃんと抑えて」
「ん…っ、うん」
両手を口にあてて、必死に声を押し殺す。
「ん…んンッ……は、ンん」
おそ松「あ、いいねー、その顔。最高」
おそ松くんを見ると、彼は、楽しそうに笑みを浮かべていた。
その笑顔を見て、気がつく。彼は、二階に声がきこえることを危惧していたわけではなく、ただわたしに声を我慢させて楽しんでいるだけだと。
「この…ドS……ッ」
おそ松「あ、怒った? めずらしい。でもその顔も好きかも、たまんねー」
貪るようにキスをされた。
舌で上の口を、指で下の口を掻き回されて、徐々に絶頂が近づいてくる。
おそ松「さくらって、キスしながら下いじられんの好きだよねー」
「……っ」
おそ松「でも、今日はここでおしまいね。俺、寝るから。おやすみ〜」
「…ぇ……っ」
おそ松くんは、何事もなかったかのようにわたしの上から退くと、あくびをしながら出て行ってしまった。
え……?
わたし、放置されたの……?
絶頂を迎えそこねた身体は、じんじんと熱く、刺激を求めて疼きだす。
「ああ、もう……!なんなの」
行き場のない苛立ちと身体の熱を抑えて、パジャマを着る。
最後までシてもらえなかったことに苛立っているのではない。
こんなことを考えざるをえない状況をつくったおそ松くんに、どうしようもなくイライラした。
確かに、電話をかけようとしたのは悪かったけど、
こんなのひどい……
それから、二階に戻って、布団に入ったけれど、身体が火照ってしまい、眠りにつけなかった。
苦しい……どうしよう。
ひとりでする?
でも、そんなの、したことないし怖い。
わたしが悶々としながら寝返りをうったそのとき。
一松「どうしたの。眠れないの」
わたしの隣に寝ていた一松くんと、目が合った。
「一松くん……起きてたの?」
一松「あんたが何回も寝返りうってて寝苦しそうだったから……起きた」
「ごめん。起こしちゃったね」
一松「べつに」
一松くんは、そう言って、そっと手を伸ばしてきた。
その手が、わたしの手を包み込んだ。