第7章 夜長の秘密【カラ松】
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夜の道は、静かだった。
きれいな二日月が、雲の間から顔を出し、暗い夜道を照らしている。
わたしたちは、そんなひとけのない夜道を、ふたり並んで歩いた。
カラ松「……単刀直入に訊くが、最近、なにか困ったこととかないか?」
と、カラ松くんが、唐突に話を切り出した。
「困ったこと……?」
カラ松「ああ。さくら、最近、すごく疲れて見えるし、夜もあまり眠れてないみたいだし、心配してたんだ。ほら、今だって目の下に隈が……」
カラ松くんが、わたしの頬に触れた。
か、顔が近い……。
「ううん、大丈夫だよ。でも、心配してくれてありがとう、カラ松くん」
カラ松「そ、そうか……? もしかして、本当は家の人と何かあったんじゃないかと思ってたんだが、ちがうみたいだな」
「えっ、家の人と……?」
思わず、目を丸くしてしまう。
カラ松くん……わたしがお父さんやお母さんと喧嘩して家出してきたと思っていたのか。
「ちがうよ、本当に何もないから」
カラ松「それならよかった……さくらは、昔から、苦労とか愚痴を溜め込むタイプだから」
「そうかな……? あ、でも、それはカラ松くんも同じじゃない?」
カラ松「え? そ、そう?」
「うん。おそ松くんも、昔、心配してたよ。カラ松は、あまり本音を言わないから、何を考えてるのかわからなくて心配だ、って」
カラ松「兄貴、そんなことを言っていたのか……」
カラ松くんは、ふっと考え込む表情をした。
その横顔を見つめていたら……ああ、やっぱりカラ松くんはカラ松くんなんだな、とわけのわからない気持ちがこみ上げて来た。
「カラ松くんは、優しいんだね」
カラ松「優しい? 俺が?」
「わたし……カラ松くんのそういうところ、すごく好きだよ」
カラ松「えっ……ええええ、あ、え、」
とたん、カラ松くんは、顔を真っ赤にして、目を泳がせた。
かっこつけのカラ松くんが、ふとしたときに見せる素の表情が、わたしは昔から好きだった。
「……てか、寒いね。そろそろお家に戻ろうか?」
カラ松「そ、そうだな。帰ろう」
帰り道、カラ松くんは、わたしの顔を見なかった。