第49章 あなたに貰ったもの《おそ松END》
ドキドキドキドキ……
心臓の音がうるさい。
おそ松「…あんがとー、さくら」
そんなわたしの気も知らず、おそ松くんは、ふーっと煙草の煙を吐き出した。
ほんと、どうしちゃったんだろう、わたし。
わたしはカラ松くんのことが好きだったはずなのに…
もしかして。
そんな。まさか。
『さくら、ごめんな……』
先日のホテルでの、おそ松くんの寂しそうな声が、頭をよぎった。
あんなおそ松くんを、初めて見た。
あんなおそ松くんの声を、初めて聴いた。
この人は、一見おちゃらけてひょうひょうとしているけれど、本当はその胸の奥でいろいろなことを考えている。
その背中に、色々なものを背負っている――
きっと……
おそ松「ほい、ついたよー」
「あっ……え……」
ぼーっと考えごとをしているうちに、いつの間にかショッピングモールに到着していたようだ。
わたしは、急いでシートベルトをはずし、車の外へ出た。
すたすたと歩き出すおそ松くんについて行きながら、不意に、おそ松くんの笑顔が見たくなった。
さっき、あんなことを思い出したからだろうか。
「おそ松くんっ」
わたしは、おそ松くんの左手に、自分の右手をすべりこませ、ぎゅっと握った。
おそ松「うおっ……なになに、どしたの」
おそ松くんは、突然のことに驚きつつも、八重歯を見せて笑ってくれた。
「ふふ……なんでもないよ」
おそ松「なんだよ、変なの」
おそ松くんの手がわたしの手をにぎり返してくる。
その瞬間、ふんわりと優しい気持ちがあふれてきた。
好き……なのかな。
この人のこと。
でも、もしそうだとしても、きっと、その想いは胸に秘めておいたほうがいい。
わたしたちは、普通のありふれた「男と女」ではないのだから。