第46章 がんばっている君に【チョロ松】
着替えを終えて階下におりていくと、台所から美味しそうな匂いがただよっていた。
そっとのぞくと、エプロンをしめたさくらちゃんが、なにやら鍋を火にかけて、鼻歌まじりに何かを包丁で切っていた。
……なんか新婚さんみたいだな。
なんて、思ったり。
あはは、僕、なに考えてるんだろう。
チョロ松「さくらちゃん……」
「……あっ、チョロ松くん。着替え終わったんだね」
僕が呼びかけると、さくらちゃんは、僕を振り向き、笑顔を浮かべた。
「もうちょっと待っててね。すぐできるから」
チョロ松「うん。なに作ってるの?」
「中華丼だよ。酢と胡椒と辣油は食べる前に入れないと美味しくないから……あと、トッピングのネギも」
チョロ松「そっか、わざわざありがとね」
じーん、と胸が熱くなる。
ほんと、さくらちゃんはいい奥さんになると思う。
料理上手だし(昔は散々だったけど)、家事も面倒くさがらずにやってくれるし、世話焼きだし。
僕とさくらちゃんなら、理想の家庭を築けるのにな……
なんて考えてしまい、その考えを頭から振り払う。
だって、それを決めるのは僕じゃない。
「……チョロ松くん?」
チョロ松「えっ…あ、……な、なに?」
さくらちゃんに名前を呼ばれて、我に返る。
「ごはん、できたよ?」
チョロ松「あっ…ほ、ほんと? ありがとう」
僕は、ほかほかと湯気をたてている中華丼のどんぶりと箸を受け取り、
チョロ松「さくらちゃんは、もう寝ていいよ?さくらちゃんも疲れてるでしょ?」
と、促した。
しかし、さくらちゃんは、僕のその言葉に唇をすぼめた。
「えーっ、なんでそんなこと言うの? わたし、チョロ松くんとお話ししたくて待ってたのに」
チョロ松「えっ、ええええ!?」
そっ、そうなの!?
なんじゃそりゃ! 嬉しすぎてやばいんですけど!
「あ……でも、チョロ松くんこそ疲れてるよね。ごめん、やっぱり大人しく寝ます……」
チョロ松「まって、さくらちゃん!」
台所を出て行こうとするさくらちゃんを、僕は腕を掴んで引き留めた。