第46章 がんばっている君に【チョロ松】
Side チョロ松
チョロ松「ふう……つかれたぁ……」
大きな溜め息をついて、松野家の家の門をくぐる。
腕時計を見ると、もう夜の11時を回っていた。
……みんなもう寝てるよね。2階の灯り消えてるし。
そんなことを考えながら、玄関のドアを開けて、家の中に入る。
……と、そのとき。
「チョロ松くん、おかえりなさい」
ぱたぱたと足音がして、さくらちゃんがひょっこりと現れた。
さくらちゃんは、パジャマ姿で、髪の毛もドライヤーで乾かしたばかりなのか少しボサボサだった。
チョロ松「ただいま。起きてたんだ?」
僕がそう言うと、さくらちゃんは、にっこりと天使のような笑みを浮かべた。
「うん。チョロ松くん、帰ってきたときにみんな寝てたら寂しいと思って」
チョロ松「え……」
うそ……
それって、つまり、僕の帰りを起きて待っててくれたってこと?
なにそれ、嬉しすぎる。
チョロ松「もう……さくらちゃんって、ほんと優しい」
「そんなことないよ。働いて帰ってくる人を出迎えるのは当たり前」
チョロ松「それが優しいって言ってるんだよおお……」
ほんと、天使かっ!
疲れているのもあり、なんだか泣きそうになる。
「あっ、わたし、ごはんあっためてくるね。チョロ松くん、先に着替えておいで?」
チョロ松「うん、ありがとう」
僕は、お言葉に甘えて、先に着替えをすることにした。
靴を脱いで、二階に向かう。
そっと寝室をのぞくと、バカ兄弟たちは、ぐーぐーといびきをかいて爆睡していた。
はあ、と溜め息をつき、着替えをするために隣の部屋に移動する。
ネクタイをゆるめ、ワイシャツとスーツを脱ぎ、パジャマに着替える。
このスーツスタイルにも、もう慣れてきた。
最初はすごく変な感じがしたけど。
……そう。僕、松野チョロ松は、就職をした。
給料もそんなに高くない、勤務時間も融通のきかない事務職。
それでも、僕にとったらとても有り難い仕事だった。
安定した仕事に就くことが、今の僕にとって1番大切なことだった。
さくらちゃんに、振り向いてほしくて必死だったから。