第35章 壊れゆく《カラ松END》
……カラ松くんとホテルに来るのは、もう何度目だろう。
わたしが一松くんと付き合っていると知ってから、カラ松くんは、前以上に身体を求めてくるようになった。
家ですることもあったけれど、カラ松くんは一松くんにバレるのを気にして、いつもホテルやカラオケボックスにわたしを連れて来た。
このままでいいなんて思っているわけではない。
けれども、わたしは、今この状況に、甘えすぎてしまったのだ。
このぬるま湯のような生活に。みんなから愛してもらえて、それを感じることのできる、この毎日に。
カラ松「なーに考えてるんだ?」
不意に、カラ松くんの指が、わたしの頬をつねった。
「いたっ…」
我に返ると、目の前にカラ松くんの顔があり、思わずドキッとする。
今、わたしたちは、ふたりでラブホテルのお風呂につかっていた。
お風呂場を暗くして、バスタブの水中照明をつけているので、バスルームの中は、色とりどりのきれいな明かりに包まれている。
「ご、ごめん……ちょっとぼーっとしてた」
カラ松「そうか… また何か悩みでもあるのか?」
「ううん、ちがうよ。ごめんね?」
わたしは、カラ松くんの手をにぎって、そっと指を絡めた。
カラ松「さくら……何かあったら遠慮なく言うんだぞ」
「うん、ありがと。やっぱりカラ松くんって優しいね」
カラ松「えっ……そ、そうか?」
わたしが素直に褒めると、カラ松くんは、顔を赤くしてわたしから目をそらした。
わたしは、カラ松くんを信じていた。
この人だけは、何があってもわたしを裏切らない。わたしに酷いことをしない、と。
けれども。
『言っとくけど、カラ松兄さんはさくらちゃんの味方なんてしてくれないよ?』
『さくらちゃんが、カラ松兄さんをどんな人間と思っているかは知らないけど、おれがこういうことしてるって兄さんに言っても、兄さんは何も解決してくれないよ』
『あとさ、あんたがカラ松のことどんな奴だと思ってるかは知らないけど、あんまり信じすぎないほうがいいよ…』
『僕のほうがさくらのこと幸せにできるのにな……』
十四松くんと一松くんに言われた意味深な言葉……
あの言葉たちが、何故か頭から離れないのだ。