第32章 期待《トド松END》
「ねえ、トド松くん? そろそろ帰ろ? これ以上飲んだら、わたし、トド松くんのこと連れて帰れないかも…」
トド松「えーっ! もう帰るのー?さくらちゃんともっと一緒にいたーい!」
「お家帰っても一緒にいれるでしょ?」
トド松「そうだけどぉ……家に帰ったら兄さんたちがいるじゃん!」
かたくなに帰ろうとしないトド松くんを引きずって、お会計を済ませ、店を出る。
あーー……やばい。わたしも結構酔ってる。
足元、ふらふらする……
トド松「んへへ〜♪さくらちゃ〜ん♪」
歩きながら、トド松くんが腕を絡めてくる。
トド松「手、つなご〜?」
「うん、いいよ」
仲良く手を繋いで、星空の下を歩く。
……と、突然、トド松くんが大人しくなった。
不思議に思い、見ると、トド松くんは、きゅっと唇を噛み締めて、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「どうしたの、トド松くん……?」
トド松「……ねえ、さくらちゃん。このまま帰りたくないなあ……」
「え……?」
トド松「さくらちゃんのこと、まだ離したくない……」
ぎゅっ、と繋いだ手に力をこめられた。
トド松「さくらちゃん……今日帰らなきゃだめかな?」
「……でも、みんな心配するよ?」
トド松「大丈夫だよ……ちゃんと連絡するから」
「でも……」
わたしが躊躇していると。
不意に、トド松くんの腕が、わたしを抱きしめた。
「……っ!」
トド松「お願い、さくらちゃん…… もう少しだけ、僕のわがまま、聞いて?」
「……トド松くん」
あのときと同じだ……
トド松くんが、わたしを逃がそうとしてくれたとき……
あのときと同じ、今にも消えてしまいそうな声だった。
その声は、まるで麻薬のようにわたしの脳を刺激し、麻痺させた。
気付いたときには、わたしは、うなずいていた。
「……いいよ?」
そう言って、トド松くんを抱きしめ返す。
トド松くんの身体は、とてもあたたかかった。