第28章 守りたい《十四松END》
十四松「じゃあ、そろそろ家に戻ろっか!さくらちゃん、びしょ濡れで風邪ひいちゃうし」
「う、うん、ありがとう。この子は、このままでいいの?」
十四松「うん、大丈夫だよっ! また夕方にごはんあげに来るからっ」
十四松くんは、ふたたびかがんで、仔犬の頭を伸びきったパーカーの袖で撫でてあげた。
十四松「いい子で待っててねー! 夕方にまた来るからねー!」
すると、仔犬は、嬉しそうにしっぽを振って、十四松くんのパーカーにすりすりと鼻をこすりつけた。
本当に可愛いわんちゃんだ。
それに……どこか十四松くんに似てる気がする。
「ほんとに十四松くんに懐いてるんだね」
十四松「最初は、おびえてて、ごはんあげるのも一苦労だったんだけどね〜。でも、ぼくは君を攻撃しないよ〜、美味しいごはん食べて元気出して〜、って言い続けてたら、いつの間にか懐いてくれた!」
「へえ〜、すごいね、十四松くん」
十四松くんは、えへへー、と笑って、ひょいと立ち上がった。
十四松「さっ、帰ろ、さくらちゃん!」
そして、十四松くんは、だぼだぼのパーカーの袖に隠れた手を、わたしに差し出した。
わたしは、それを、ぎゅっと握る。
そのとき、ふと、十四松くんが、いつもの黄色いスリッパではなく、普通の長靴を履いていることに気がつく。
そっか……だから玄関に靴があったんだ。
十四松「ねっ、さくらちゃん! あの仔犬のこと、兄さんたちには黙っててね?」
「うん、いいよ。わたしと十四松くんだけの秘密にしよう?」
十四松「えへへー、ぼくたちだけの秘密っ!」
十四松くんは、嬉しそうに笑った。
その笑顔を見ていたら、なんだか、もうリストカットのことには触れないほうがいいんじゃないかという気がしてきた。
だって、今の十四松くんは、こんなに楽しそうに笑っていて、きらきら輝いてる。
なら、今更傷口を掘り返すような真似をしなくてもいいんじゃないか。
今が良ければ、過去のことなんて、気にしないほうがいいんじゃないか。
わたしは、ぎゅっと力をこめて十四松くんの手を握った。
彼が、もうどこにも行かないように……