第3章 誰にもわたさない【トド松】
ぎゅっと。わたしは、トド松くんの腕に抱きしめられていた。
トド松「なんでもないなんて、嘘だよね? だって、さくらちゃん、こんなにボロボロでつらそうにしてる」
「トド松くん……」
トド松「そんなに僕に言いづらいことなの?兄さんたちに何かされた?」
「あ……」
そっか。トド松くん……分かってるんだ。
トド松「いいよ、言って? 僕、傷ついたりしないから」
「う……トド松くん……ううっ」
そのとき、何かが決壊したかのように、涙が溢れ出した。
わたしは、トド松くんの胸にしがみついて、嗚咽した。
どのくらいそうしていたか分からない。
涙が止まったとき、窓から見える空は、夕焼けで真っ赤に染まっていた。
トド松「落ち着いた……?」
「うん」
トド松「で、何があったのか話してくれる気になった?」
「うん……」
わたしは、ぽつぽつと昨日からの出来事を話した。
トド松くんは、それを、動揺したりせずに真面目な顔で聞いてくれた。
ここでトド松くんがショックを受けたような反応をしたなら、最後まで話すのをやめようと思ったけれど、結局促されるままにぜんぶを話してしまった。
トド松「……それじゃあ、一松兄さんも、おそ松兄さんも、十四松兄さんも、さくらちゃんのことが好きで、3人にむりやり襲われたってことか」
「うん……」
トド松「それって、最後までされたの?」
「ううん。最後まではされなかったけど……」
トド松「ふうん、そっかあ……よかった」
「え? なにが良かったの?」
トド松「ううん? さくらちゃん、まだ処女のままなんだなーって」
トド松くんは、ふふ、と小さく笑った。
なにが可笑しいのか、何がよかったのか、さっぱりわからないけど、
とにかく、今のトド松くんは様子がおかしいということだけは分かる。
「トド松くん……あなた、まさか……」
トド松「兄さんたち、ひどいよね。抜け駆けはしないって約束だったのに、3人も約束を破る人がいるなんて」
「え……な、なに、抜け駆けって」
トド松「さくらちゃんに手出したんでしょ? 立派な抜け駆けじゃん。僕はずっと我慢してたのに」
トド松くんは、四つん這いになって、わたしににじり寄ってくる。
まずい……後ろが壁だから逃げられない。