第26章 なんで?《チョロ松END》
一松「僕、ちゃんとした手当のやり方とかわかんないから……チョロ松兄さんに手当してもらって」
そう言って、一松くんは、わたしを引っ張って二階へ続く階段をのぼっていった。
チョロ松くん……どこに行ったのかと思ったら二階にいたんだ。
一松くんは、二階の部屋のふすまを開けて、わたしを中に引き入れた。
部屋の中では、チョロ松くんがひとり就活誌を広げていた。
一松「チョロ松兄さん」
チョロ松「……ん、どうしたの、一松?」
チョロ松くんは、雑誌から顔をあげて、小首を傾げた。
そのとき、何かがおかしいな、と思った。
だって……チョロ松くん……
全然わたしのほうを見ようとしないんだもの。
一松「さくらが包丁で指切っちゃって……血、でてるんだ。チョロ松兄さん、手当してあげて」
チョロ松「……」
そこで、チョロ松くんは、ようやくわたしのほうを見た。
その瞳は、なんだか冷たくて、まるでわたしを鬱陶しがっているような目つきだった。
「チョロ松くん……あの、ごめんね。忙しいときに」
もしかしたら、就活中に邪魔されて苛立っているのかもしれないと思い、謝罪の言葉を口にする。
……と、チョロ松くんの口から、ちっ、という小さな舌打ちがきこえた。
「えっ……」
驚きと、ショックと、悲しみとで、身体が動かなくなる。
なんで……?
わたし、何かした……?
チョロ松「ほんっと、迷惑きわまりないよね、こっちからしたら。てか、なに? 包丁で指切ったとか、どんくさすぎて笑えないんだけど」
チョロ松くんの口から、チョロ松くんのものとは思えないひどい言葉が次々に紡がれた。
思わず、泣きそうになった、そのとき、一松くんが前に出た。
一松「ちょっと、チョロ松兄さん……そんな言い方しなくても……」
チョロ松「一松も一松だよ。どうして僕のところにさくらちゃんを連れてくるわけ? 手当くらい、自分でさせたら?」
一松「……っ、ああ、そう。わかった、チョロ松兄さんに頼んだ僕が馬鹿だった」
一松くんは、ふたたびわたしの手を取ると、ずかずかと部屋を出ていった。
わたしも、それに引きずられるようにして部屋をあとにする。
チョロ松くん……
どうしちゃったの?