第19章 わたしの気持ち《一松END》
『一松くん』は、わたしに覆い被さったまま、苦しげに顔を歪めた。
『一松くん』は、わたしに向かって振り下ろされた刃物を、背中で受け止めていたのだ。
「いっ、一松くんっ!?」
一松「つ……さくら、だ、だいじょうぶ…?怪我、してない…?」
「怪我してるのは一松くんでしょ…! どうしてこんなこと…」
あわてて彼に刺さった包丁を抜こうと手を伸ばした、そのとき。
ふと、違和感を覚えた。
一松くんの背中に刺さった包丁の柄が、誰かの手によってしっかりと握りしめられていたのだ。
え?この手は、だれの手?
というか、よく考えたら、自分で自分の背中に包丁を刺すなんて無理だ…
じゃあ、この手の主は……一松くんを刺したのは……だれ?
わたしは、おそるおそる顔をあげた。
「……っえ?」
包丁を握っていたのは、一松くんだった。
どういうことなのか分からないけれど、ここには、一松くんが2人いた。
一人は、わたしに向かって包丁を振り下ろした一松くん。今現在、包丁を握っている一松くん。
そして、もう一人は、わたしを庇って刺された一松くん。わたしに覆い被さって抱きしめるような体勢のまま動けない一松くん。
「どういうこと……なの?」
と、そのとき。
包丁を握った一松くんが、狂ったように笑い出した。
???「っははははは! なーんだ、まさか一松に庇われるとは思わなかったよ! 残念だなあ、あとちょっとだったのに」
「え……?ま、まさか……その声……」
その声に、わたしは聞き覚えがあった。
それは、いつもわたしに優しくしてくれた人。
いつもわたしのことを考えてくれていた人。
わたしが……大好きだった人。
「か、カラ松くん……?」
おそるおそるその名前を口にする。
その瞬間、一松くんに化けていた彼は、にいーっと口角を吊り上げた。
???「正解〜! そうだよ、俺は一松じゃない。カラ松さあ」
「……っ、なんで? なんでなんでなんでっ? どうしてなの、カラ松くんっ」
カラ松「どうしてって、さくらは変なことを訊くんだな。そんなの決まってるじゃないか」
そして、カラ松くんは、わたしの顎をつかみあげ、
カラ松「……おまえが一松に目移りしたからだよ」
おそろしく冷たい声で言い放った。