第19章 わたしの気持ち《一松END》
その日の夜。
わたしは、異様に喉がかわいて目を覚ました。
隣には、口を開けて大きないびきをかいている十四松くん。
その隣に、チョロ松くん、おそ松くん、トド松くん、カラ松くん、一松くん、と続いている。
「お水、飲みたい……」
わたしは、みんなを起こさないように、そっと布団を抜け出した。
足音がしないように慎重に廊下をすすみ、階段を下りる。
そして、水を飲むために台所に足を踏み入れた。
食器棚からガラスのコップを取り、蛇口をひねって水を注ぐ。
そして、それを飲み干そうとした、そのとき。
背中に何かを突きつけられるような感覚に、わたしは動きを止めた。
「っ……」
???「こんな時間に一人になっちゃダメじゃん」
「……っ、いちまつ、くん?」
怖くて振り向けないけど、声でわかる。
わたしの背後にいるのは、一松くんだ。
そして、
きっと、
わたしの背中に突きつけられているのは、刃物だ。
一松「やっと2人きりになれたね、さくら」
「……いちまつくん。や、やっぱりあのときわたしを殺そうとしたのは……あなただったの……?」
一松「ヒヒッ…そうだよ。他に誰がいるって言うんだよ」
一松くんは、さぞ楽しそうに笑った。
そんな……じゃあ、やっぱり一松くんは嘘をついていたの……?
一松「僕のこと信じてくれてありがと。でも、残念でしたー。僕を信じようとした時点で、すでにゲームオーバーだよ」
「一松くんっ……」
ぽろぽろと涙があふれてきて止まらない。
怖い、とか、悲しい、とか、いろんな感情があふれてきて、抑えられない。
一松「…最後にキスしていい?」
一松くんは、わたしの肩をつかみ、正面を向かせた。
暗闇の中で見る一松くんの双眸は、おどろくほどに青く澄んでいた。
一松くんの唇が、わたしの唇に触れる。
そして、その唇が離れたとき。一松くんは、手に持っていた包丁を、わたし目がけて振り上げた。
わたしは、覚悟を決めて、目を閉じた。
刃が空をきる。
そして……
「……えっ?」
目を開けたわたしは、そこに広がっていた光景に目を見張った。
振り下ろされた刃から守るようにわたしに覆い被さっていたのは、
まぎれもない、『一松くん』だった。