第19章 わたしの気持ち《一松END》
二階の窓をつたって、屋根の上にのぼる。
結構な高さがあって思わずくらっとしたけど、でも風がすごく気持ちいい。
「わー……! すごい…! 意外と高いんだね」
一松「…でしょ。危ないから、僕につかまってて」
「うん……あ、ありがと」
一松くん……不意にこういうキュンとするこというんだから。反則。
わたしは、一松くんの手をにぎり、足をすべらせないように気をつけながら、屋根の先端に歩いて行った。
「ん〜っ、やっぱり高いところは気持ちいいね」
一松「そうだね…」
わたしたちは、屋根の端に並んで腰をおろした。
ひゅう…と弱い風がふたりの間をすり抜けていく。
なんだか……心地いい。
「空……広いね」
一松「うん……」
「今日の空、いつもより青く感じる」
一松「青といえば……さくら、カラ松とはどうなってんの」
「えっ……」
まさか、今このタイミングでカラ松くんとのことを訊かれるとは思っていなかった。
正直に言うと、カラ松くんとは、今でも身体の関係を続けていた。
でも、わたしは、カラ松くんと一松くん、どちらが好きなのか分からなくなりかけていて……
カラ松くんと身体を重ねても、誰に対するものかもわからない罪悪感ばかりがこみ上げてきて、幸せを感じなくなっていた。
「……どうもしない、よ?」
一松「でも、まだ好きなんでしょ。カラ松のこと」
「……」
わたしは、口をつぐんだ。
一松くん……今日は変だな。どうしてこんなことを訊くんだろう。
一松「ねえ……俺とカラ松、どっちが好き?」
「っ……え!?」
一松「答えられるよね? もしどっちか選べって言われたら、どっちを選ぶ?」
「……っそ、それは……っ」
にじり寄ってくる一松くんに、思わず後ずさる。
と、一松くんは、「ふーん…」と低い声で呟き、
一松「答えられないんだ……? そっかあ……」
昏い澱をはらんだ瞳で、にんまりと笑った。
どくん、と心臓が音をたてる。
危険だ、逃げろ、とわたしの中の勘が警笛を鳴らした。
「っ…い、一松くんっ……?」
一松「わかった。さくらがその気なら……」
そして、一松くんは、片手を振り上げた。
その手には、銀色にぎらつく出刃包丁が握られていた。